水の滴る色(16)

2011年11月10日

曇り。
朝までスーツケースと格闘して、七時半前に宿を出る。
七時半頃、まだモスクワは寝ている人が多い。

なんてったって、暗い。八時半頃の列車に乗る為に、モスクワのキエフスカヤ駅に行ったけれど、真っ暗で、夜みたいだった。
それでも労働者たちは出勤して行くわけで。

僕は迂闊だった。
一度もキエフスカヤ駅周辺に来なかったのがよくなかった。
撮影したい街の風景は、暗かったからだったのか、ここにあった、と感じたし、でもこんな暗くちゃ撮れない、とも思って、少しへこんだ。
朝からなんだかどうしようもない1日になりそうだな、と思って駅に入る。

でも、そこは長距離列車の入り口じゃなくて、モスクワの国内線空港へ行く列車の乗り口で、一度外に出て、今度は券売所へ。
券売所で最初に行った窓口で、「隣の隣の人に聞け」と言われ、その人のところに行ったらクローズになっていて、その隣の人に聞いたら「ここじゃねぇよ!」の一言で一蹴。目の前が真っ白になる、とはこのこと。
列車まであと30分。
一部始終を見ていた同い年くらいの男の人が、「これはあっちの券売所で聞いてご覧」と、ジェスチャーで教えてくれた。こういう優しさにぐっとくる。
そこには長蛇の列。ヤバいぞ。
結果、8:36の列車に乗るために、eチケットがきっぷに変わったのは8:17頃だった。
更には、日本の駅みたく、「はい、券売窓口のすぐ横が改札です」みたいにはなってなくて、建物が別。
一度出て、ぐるっと回った裏手が入り口だった。そんなのわかるはずがない。

スーツケースをごろごろ持ち歩き、列車に乗ったのは8:25。正直怖かった。久しぶりにドキドキした気がした。

冷静でいられなくなるし、ヘマすると焦るし。やっぱり僕は早め早めに動かないと無理みたい。

列車はいつぞやのカザフで乗ったものと全く同じ形。
懐かしさに胸が詰まる。しかし何故か今回は足が伸ばせる。前回と身長変わっていないはずなのに、何故。

列車に揺られること14時間、日本の列車と違って、街と街との間は大平原。タイガの姿はまさしくこれなのだ、と感じるような森林を何度も抜けた。僕は北海道に行った事がないのだけれど、北海道はこんな感じなのだろうか。

街を越えて、森林に入ると一気にケータイの電波は通じなくなり、列車は静かになる。
前後左右上下にがたごとがったごっと揺れる列車は少し酔うかと思った。

列車の中ではケータイの電波と格闘してみたり、スケッチブックに向かったり、本を読んだり、とくつろいで過ごした。
相部屋だった夫婦はよく食べるカップルで、僕は小さなパン2個とTwixだけだったから、この平気で4〜5倍は食べる、特に奥さんに僕はびっくりだった。

途中、税関申告では荷物を全て暴かれ、車掌には「じゃぽん」と呼ばれ続け、到着時刻に着いてからは、キエフの宿の人がわからない。もうすごい、人。

キエフの宿の人には無事に声をかけられ、彼らのやさしっくってクールな対応が好きになった。
明日からキエフ撮影。しかりとがんばろう。